死後におけるケアの現場では、性別への配慮が案外ゆるやかになってしまうことが少なくありません。
若い女性のご遺体の場合は、葬儀屋からの希望もあり、女性遺体従事者が担当します。
しかし高齢の女性ご遺体になると「もういいだろう」という空気が働き、特別なご依頼がない限り男性遺体従事者が執り行うケースが今も多く残っています。
(地域差もあります。たとえば映画『おくりびと』の舞台となった東北地方などでは、伝統的に納棺の仕事は男性が担うことが多かった背景もあります)
法的な平等の話はさておき、私は個人的に「遺体のケアに携わる人は全員女性でいい」とさえ思います。
いくつ歳を重ねても、女性が知らない男性に裸を見られることに「恥ずかしくない」わけではないからです。
逆に、遺体をケアするにあたり「男性遺体従事者がどうしても必要」という場面は、
私の知る限りほとんどありません。
「じゃあ男性のご遺体は男性が担当したほうがいいのでは?」と思う方もいるでしょう。
しかし最終的にはご遺体のメイクや細やかな身だしなみ、表情づくりがとても大切になり、そうした繊細さは、むしろ女性のほうが自然に気づきやすい傾向にあります。
実際、今現場で活躍されている男性遺体従事者たちは、ご家族から
「男性なのにここまでメイクができて凄いね」
「男性がやってくれてるんだから、
これくらいで十分だよね」
と、ある意味“許されて”いる形で存在している方が多いのが実情です。
一方で、女性遺体従事者が男性のご遺体を担当する際は、むしろ配慮すべき点がたくさんあります。
たとえば着替えや、紙おむつを普段の下着に替えるときなどは、必ずご夫人(奥様)に陰部まわりのお手伝いをお願いしています。
なぜなら、どれだけ長い年月を共に過ごした夫婦であっても、最後の最後に触れることを許されるのは、人生を共有してきた伴侶だけでいいと思うからです。
死後であったとしても部外者である私たちが、その2人だけの領域に土足で踏み込むことは決してあってはならない
と、私は思っています。
それが配慮であり、思いやりです。
(配慮や思いやりはご家族の心の痛みを少しでも和らげ、悲しみを“ちゃんと悲しむ”ための大切な支えになるものと信じています。)
介護や看護の生体対応とは違って、ご本人のお気持ちを直接うかがうことはもうできません。
「家族はこれでよかったと思えたか」
と家族の気持ちに焦点を合わせると、どうしても最初のハードルは遺体従事者の性別、になるような気がします。
(まぁ、湯灌する時とか重い物持つ時とか、本当に男性は重宝されるんですけどね…
あと面白い人が多いかな…うーん…)
しかし、男性遺体従事者が汎用性ないとしたら、じゃあなぜ、映画おくりびとの主人公はじめ、遺体界の上層部は叩き上げ男性が多いんだろう…とふと疑問です。
※同業者が性的な目でご遺体を見てない事は1,000も承知です。ただ、私達は今日初めてご家族にお会いしました。ご家族に様々な過去、エピソードがあり、そう思わない保証はない世界で私達は働いている事を忘れてはなりません。