今回は【エンジェルフライト 国際霊柩送還士】を観た感想を、アメリカ•ドイツ•中国•ハワイからの事故遺体を担当した事がある私が、ご遺体専門目線で語ってみます。

Amazon primeで第一話を観ました!

まず初めに、私はこの手の映画やドラマが凄く苦手です🥲

理由は2つあります。

  • 主人公がご遺体ではなく、ドラマの役者。
  • 内容がファンタジー寄りの過度な演出、お涙頂戴エピソードだから。

基本コンプラは守るべき立場なので、エピソード晒しを本でする同業者が大嫌いです。

演出については、ご遺体専門職すぎて「いやいや、そんな訳ないだろう」とわかってしまうし、粗探しばかりしてしまう自分もストレスなのです。。

しかし、今回は色々あって観てしまったので話します。(長くなるので前編後編をわけます)

  • (前編)ドラマとして
  • 【重要1】ご遺体のクオリティ(1人目2人目)
  • (後編)実際こんな仕事あるのか?
  • 【重要2】ご遺体を扱う人の世間のイメージ、ギャップ。またここに戻されたか…
  • 番外編•ご遺体従事を生業にしている人に指輪渡すのはKY。

ドラマとして

まずドラマとしては素晴らしかったと思います。特にお母さんの演技がかなり上手で、お父さんがマニラで「息子の遺体はいらない!明日帰るぞ!」って時のお母さんの演技で私は泣きました。

お母さん•佐千恵(麻生祐未さん)

実際の私も現場で胸が打たれるのは、故人のエピソードが垣間見れた時なので…


ご遺体のクオリティ

ここからは少しマニアックに話していきます。エンジェルフライトのファンの方は見ないでください。

私はご遺体がドラマや映画ででていたら、一時停止して、写真を撮り、細部までしっかり観て現実と比較してしまうタイプです。

そして「ご遺体ドラマ」と言ったらアメリカ!なのです🇺🇸

アメリカのドラマ、ウォーキングデッド•CSI:マイアミ•bones 等のご遺体達を比べると、残念ながら日本はご遺体表現クオリティはかなり劣っております。

CSI:マイアミ5。死者が腐乱遺体になるまでを
リアルに表現してくれている。
ウジ虫の描写や体液の出方は圧巻で、再現度が高いと変な人達から絶賛の声もチラホラ。

でもそれは仕方ないのです。ドラマに携わる「ご遺体指導の専門家(専門法医学者)」が海外にはいて、日本にはいないからリアリティ度が低いのだと思います。

2005年公開、着信アリ2のミイラご遺体。
怖いようでよく見ると怖くない。
ミイラは一朝一夕では作れない。
専門家がいなければ、
ご遺体演出は想像で作るしかないのだと思う。

(今回のエンジェルフライトの制作者陣の中で法医学者を探しましたが、お名前は見当たりませんでした。。)

ご遺体はお二人でてきます。のでいつも通り、1人目から細かくチェックです。

映画やドラマはインパクトを出す為、1人目のご遺体は重要です。それなりにちゃんと演出されているし細部まで凝っています!

その為、インパクトは1人目より2人目の方が控え目でありました。


1人目:口と耳が魚に食べられて内臓が出ている男性。体液漏れ防止の為にトイレットペーパーが敷き詰められている。

死因や現在死亡して何日目か色々不明だが、魚というワードから水難事故だとすると、私達水の事故遺体の場合、腐敗進度が超早いのを忘れてはならない。(水の温度が5℃以下除く)

(沖縄の海で2〜7日沈んでたり漂っていた人を担当した事があるが、面会葬儀ができるご遺体で小魚に食べられていた人は皆無。魚の種類の問題で、ピラニアならありえるのか。だとしたら、アマゾンや亜熱帯地方でのご遺体は、日本よりも腐乱しすぎて見た目が人間ではなくなっている可能性が高い。)

あと、魚に食べられる位水に浸かっていた割には綺麗すぎる。顔も膨らんでないし、目も鼻も潰れていない。口も閉じてるし皮膚も顔に着いている。体液漏れの状態からドライアイスなど冷却をしてないのに、魚に食べられた外傷だけで済むはずがない。▶︎結果ありえない。

内臓が出ている=腐敗を表現したかったのかもしれないが、身体をどす黒くすれば良いってものではない。腐敗由来のどす黒さには、それなりの見た目の変化が伴う。(急死鬱血とはまた違うので注意)

海や川の事故、魚に食われてる、何日も経っている、というのを考えると、日本到着時には顔や肉体は驚くほど腫れ上がり国宝、九相図のようになっているのである。

えそう
[第三相」壞相
またたく間に、この膨張した屍は、風に吹かれ日
に曝されて、皮や肉が破れ壊れ、身体が拆裂して
形や色が変わってしまい、識別不可能となる。こ
れを、壊相と名づける。

トイレットペーパー敷き詰めについての誤解

ドラマ内では「ベチャベチャだよぉ〜!」と言われているが、
見た目はそこまでベチャベチャでもなかった。

演者の言い方から「トイレットペーパーはご遺体の冒涜」のように聞こえるが、冒涜などではない!!!

当たっても痛くないし、ご遺体に傷がつかない。かなり優しい対処!!!

大切な資源をあんな風に何個も使えるなんて、相当裕福な国からきたのだろう。

数えたらざっと40個位かな。頭と肩側に20弱。これはリッチすぎる。正直日本の法医学や葬儀からは考えられない。

では、普通はどうするか→体液漏れの可能性がある遺体は納体袋に何重にも入れて、物理的に漏れがないようにするのみ。

それにご遺体が動かないように、などの配慮は海外便では見た事がない。そもそも海外から日本にくるご遺体は殆どがエンバーミングされている。本場のエンバーミング済みの遺体は硬く、動かない。気をつけの姿勢で手を広げたフィギュア人形みたいな格好で、動く隙間もない位キツキツに棺に入っていたからか。。。

(因みに、日本人の国内輸送はご遺体に配慮して、綿や新聞紙、ドライアイスを敷き詰めている。)

それに「魚に食べられて内臓が出ている」という誰かの言葉とともにネチャア」というネチャネチャした効果音は…ちょっとナンセンス。まだ生きてる魚が体内にいたのかしら…

最後に、葬儀場面で奥様が見る処置後のご遺体綺麗すぎます。まぁ処置前がそんなに悪くないからあの位ならできるのかな…(ドラマだし…)

いつも思います。

人間は、自然の腐敗には勝てない。

理由はご遺体は不可逆的だからである。

遺体従事者は「できる」し「やる気はある」けど、腐った人間を家族が知ってる元の本人のように戻せない。

人間は自然の力には勝てない。

それは令和の時代、エンバーミングが日本に入ってきても、である。


2人目:マニラでリンチ、若い男性。数日間ドライアイスなしで連れ回される。

2人目でご遺体のクオリティがグッと下がってしまった。全くもって見た目は顔に切り傷がある、普通のご遺体である。(この男性より、病院でずっと酸素マスクして鼻や口が変形してるご遺体の方が修復はよっぽど大変である。)

やはりご遺体描写的にリンチで死亡のご遺体というのは、難易度が高かったような気がする。

34分あたりで顔殴られて口から血が出てるけど、こんな壮絶なリンチ後の死亡なら顔は風船のように腫れ上がって本当に痛々しくなる。腫れ、というのは死後も中々引かないものである。

それは絶対にそうなる。

失血死なのか、内臓損傷なのか死因はわからないけど、35分あたりで仲間がその場を見て追いかけているから病院搬送もできただろうに。。しかし、もし病院搬送していたら即ICU行きで顔は浮腫み、半魚人のように腫れ上がる。

文化の背景について。

フィリピンにはドライアイスが流通していない。そしてドラマのように長らく安置する文化なので死後、即刻エンバーミングを施す。マニラのスラム街だから、エンバーミングする金もなかったのかな…??

フィリピンエンバーミングの現状。

信じられないほど破格で施せるのがフィリピンのエンバーミング。(業者によるが、ある業者は日本円で1,000円位だったと)しかし安い所は技術が相当お粗末。右半身や片足だけが腐ってくる事がザラとの事(現地の葬儀に参加した遺族の証言)

だからリアルに言うと、どちらにせよあの男性の浮腫のない、スッキリ顔はありえないのである。

あと、今回2名のご遺体の処置後メイクを見て思った事は、なぜ顔面蒼白メイクにして死者感を強めているのだろうか…?

監督の方針?もっと血色をよくして「生きてる風」に見せなかったのはなんでだろうか??どうせ腐敗してないんだから、メイクなどいくらでもできただろう。これは本当によくわからない。。。

長くなったので後半に続きます🥳↓↓

【後編】エンジェルフライト 国際霊柩送還士を観た感想