父の他界と遺体修復師
「元気な姿」に戻って出棺
「遺体修復師」という職
業を知っているだろうか。
遺体の尊厳を守り、病気な
どで変わってしまった姿を
処置し、生前の姿まで近づ
けるのだ。
今年初めに、父ががんで
他界した。病気発見時には
車も運転できるくらいに元
気な父であったが、日を重
ねていくうちに食事も取れ
ず細くなり、変わってしま
った姿に父自身もショック
を受けていた。細くなった
姿を気にしており、亡くな
る直前まで、孫や子の私と
も会いたくないと話してい
たと母から聞いていた。
しかし、死去するとその
変わってしまった姿で最期
に会いに来てくれた人々と
対面しなければならない。
父自身は、どうすることも
できず、私たち家族は生前
の父を思い出し、何かでき
ることはないか考えた。
そこで知り合いに紹介し
てもらったのが「修復師」
との出会いである。全国的
にも数少ない職業のよう
だ。初めて聞く職業であり
イメージができなかった
が、細くなってしまった父
の尊厳を少しでも保ちた
い。そんな思いから家族全
員二つ返事で依頼した。
修復師は父の遺影を確認
し、生前のエピソードを聞
きながら修復に当たった。
母は父が亡くなる直前まで
自宅介護を行っていた。修
復師からは「このようなや
せ方は奥さまがしっかり介
護していたのが分かります
よ」と、母の労をねぎらう
言葉を掛けていただいた。
母もその言葉に救われた表
情を浮かべた。その姿を見
て私も安心した。
修復中は故人である父に
も配慮しながら、修復師は
「鶴の恩返し」のように戸
を閉じ、修復に当たった。
処置を終えた父の姿を見る
と、へこんでいた目や細く
なった頰もふっくらしてい
る。元気だった父の姿だっ
たのだ。細くなっていた父
が急に元気になったような
安心感が、私たち家族を包
んだ。
私たちも父の手や足にワ
セリンを塗り、遺体の保全に
に努めた。これが唯一、
と最期に触れ合えることだ
ったと思う。
今回の出来事で遺体が怖
いという認識が変わった。
修復師は出棺の朝にも来て
くれて、最期のお見送りの
準備もしてくれた。
父もきっと喜んでいるに
違いない。おかげさまで私
たち家族も元気そうな姿
で父を見送る事ができて
本当に感謝している。
父は享年63とまだ若く、
悔やまれる気持ちも強かっ
た。これまでの父に感謝し、
前を向いて父の生きられな
かった分を精いっぱい、今
日も全力で生きていきます。
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